今晩も、自宅で奇天烈瞑想に没頭している。
寝そべって、イヤホンをして、手で丸を作り、ペニスを囲う。
握らず、こすらず、ただ囲う。
逃げようのない反応はもう身体が求めてしまって、
美人ヨガ講師以外の女性の影もなく、すがる先もなし……。
ありえないことに、すっかり、盲従してしまっていた。
★
奇天烈瞑想パーソナルコース 4トラック目に差し掛かったとき、
誰もいないはずなのに気配を感じて、
あの"ソーダの香り"がした瞬間、ハッと目が見開いた。
「ペニスをおくちで……じゅぽじゅぽ、しゃぶります」
奇天烈瞑想の形を中心にして勃起したペニスを、
美人ヨガ講師が見つめていた。
わざわざ自宅に来てもらえたことよりも、
その言葉がなにかの間違いだと思った。
けれど彼女は、わからせるように復唱した。
「ペニスをおくちで……じゅぽじゅぽ、しゃぶります」
「……先生…どう…して…?」
目の前のできごとは、一体どういうことなのか。
己の日時計は、何を指し示しているのか。
開いたヨガ講師の唇は、丸の形をしていた。
ずっと手で作らされてきた、あの輪が、柔らかな女性の唇となり、
温度と、唾液と、吐息を持って、ゆっくり、ペニスに降りてくる。
「あ、…あぁ……」
じゅぽ……じゅぽ……。
「…先生、俺どうしたらいいですか……」
亀頭がジリジリとしびれて、
浅い呼吸を、繰り返すことしかできない。
数年ぶりの熱心なフェ◯チオに対して、
とにかく、気持ちよくなってはいけない気がした。
握ってはいけないはずの場所が、濡れた唇の輪に、はめられている。
こすってはいけないはずの場所を、内側の粘膜が、こすっている。
彼女の立てる音の、泡のような、粘りのような音が、
ペニスにまとわりついてはじけた。
「…ずっと……しゃぶりたかったんですよ……?」
教える声のまま、そんなことを言うのだ。
美人ヨガ講師の片手で作られた輪が、
唾液を馴染ませるようにペニスを上下している。
「このまま上にまたがって……ひとつになりたい……」
全身に力を込めて、こらえた。
「だ、ダメです……そんなことしたら……」
瞑想で鍛えた身体は、ここで繋がるはずがないと思っていた。
どうする、どうなる。
ヨガ講師の前で、強いところを見せつけたい。
このまま奇天烈瞑想の形を取るか、
美人ヨガ講師を押し倒してヨガらせるか……。
オスペニスとしての本能は、
どちらの選択肢にしろ、ここで正念場を迎えていた。
「これまで……よく、我慢できましたね……」
彼女が、日時計にまたがる。
求めている一点に、ぜんぶが、集まった。
――ハッ、と目が覚めた。
祈るような気持ちで、パンツに手をやった。
夢精、していた。
日曜。
★
昼、ヨガ教室から電話がかかってきた。
「最近のご様子を、お顔を見ながら伺いたくて」
「ビデオ通話に、切り替えてもいいですか」
画面がつながるまでの数秒で、あわてて寝癖を押さえ、
片付いているところに移動した。
画面に、彼女が映った。
先に目が行ったのは、唇だった。
丸、と思ってしまってから、あわてて視線を上げた。
「……最近は、いかがですか」
教室にはなかなか行けていないが、
自宅での実践は続けていること、
そして――夢精してしまったことを、正直に伝えた。
夢の内容まで話して、
雑念だとか、煩悩だとか、
そういう言葉が待っていると思っていたが、
画面の向こうから返ってきた言葉は、
自分の覚悟を、軽々と飛び越えていった。
「地球の形が変わる瞬間を、考えたことはありますか」
「……いえ」
「ナブラは、逆三角形の形をしているんです……」
「ナブラ……?」
「とんがった地球、かわいいですよね……ふふっ……」
彼女は画面の向こうで、両手の親指と人差し指で、逆さの三角を作ってみせた。
「∇(ナブラ)は、こうやって作るんです」
頂点が、下を向いている。
「すべてが、いちばん低いところへ、一点へ、集まっていく形です」
昨夜見た、彼女にとっては最低な夢のことを、言われている気がした。
「ナブラの形と、丸の形で、すがすがしく始めましょう」
「……このあと、音源をお送りしますね」
★
あの一発の射精で疲れていたのか、
風呂に入ったあとうっかり眠ってしまった。
また、一週間が始まる。
届いた音源で今晩はナブラの形と丸の形を実践するのだから、
仕事を滞りなく回すために、動かなければ。
会社では、いつもどおりに、仕事が回っていた。
少し前までは、丸いものを見るたびに、
奇天烈瞑想を思い出しては、恐怖に似たものを感じていた。
それが、いつからか、逆になっていた。
輪は、循環。
回っているものは、うまくいっているものだ。
丸を見るたびに、なぜか、心強い。
……盲従がまた一段、深くなっている自覚があった。
★
昼食を買いに、コンビニに寄った。
冷蔵コーナーの光の下で、足が止まる。
サンドイッチは、三角。
ツナマヨおにぎりも、三角。
その隣で、炊き込みご飯のおにぎりが、丸い。
(…これは…)
三角と、丸……。
おにぎりの棚の前で、
誰にも見えないくらい、小さく、腰を使って、
円を、描く。
そのなかに、逆さの、三角形。
続けて、正三角形。
円で囲われた、六芒星のようだった。
(これか……これなのか?)
正解が用意されているわけではないと思った。
だが、これがもしかしたら正解なのだとしたら、どうしよう。
強い氣付きで、ペニスが強くウズウズする。
ヨガ講師に、この氣付きをいますぐにでも伝えたい。
――「コンビニの棚の前で、思ったんです」
奇天烈瞑想で精進したペニスの成果として、
いまの腰つきで描いた六芒星をビデオ通話で見てもらいたい。
クイッ…クイッ…。
一体、どんな反応を見せてくれるのだろうか。
ああ、いますぐ、ビデオ通話のボタンを押してしまいたい。
……けれど、こらえた。
奇天烈瞑想は、いつだって、こらえることの先にある。
この氣付きは、今夜の実践で確かめてから、報告するべき成果だ。
クイッ、と最後にオスの一突き。
ツナマヨと、炊き込みご飯おにぎりを、ひとつずつ買った。
左手に、三角。
右手に、丸。
早く夜になってほしいから、
レジの店員に、愛想良くする。
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