Description / 説明

「手で丸を作り、ペニスを囲います」

自宅のポストに入っていたのは、いかにも胡散臭い、妙にツヤのある紫色の広告でした。
普通なら、見た瞬間に捨てていたはずです。
けれど、その日はなぜか違いました。
チラシには、こう書かれていました。
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「新感覚ヨガ
宇宙とペニスが繋がるバイノーラルビートで奇天烈瞑想
1日体験実施中!」
宇宙接続 / 波動覚醒 / 快感誘導 / 深層瞑想
ドライオーガズム / 脳イキ / 自己開発 / 乳首開発 / エナジーオーガズム
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宇宙。ペニス。瞑想。
どれも一緒に並べていい言葉には思えませんでした。
美人講師の写真つきで、なおさら"意味がわからないのに、なぜか気になる"。
そういう広告ほど、人を深いところまで連れていくものです。
予約してしまったのは、少し疲れていたからかもしれません。
教室は、駅から少し歩いた雑居ビルの4階にありました。
看板はなく、チラシに書かれた部屋番号だけが頼りでした。
ドアを開けると、マットが、等間隔に、6枚敷かれていました。
すでに、5人の男性が、静かに正座しています。
受付で、箱に入ったままのイヤホンを手渡されました。
後で調べたら、3000円ほどする型番でした。
チラシの通りの女性講師は、どこか人を安心させるような顔で微笑んでいました。
美人で妖しい。
なのに、その身体からは、ソーダに似た、少し子どもっぽい匂いがしていました。
あなたはいまだにその香りを、変に覚えてしまっています。
彼女は言いました。
「寝そべって、イヤホンをしたら、
手で丸を作り、ペニスを囲います」
「握ってはいけません。
こすってもいけません。
ただ囲うだけです。
それが、宇宙と接続するための"正しい姿勢"だからです」
講師が、手元のタブレットを、静かにタップしました。
再生が始まります。
声はありません。
囁きも、誘導も、説明もありません。
あるのは、奥で唸り続ける低周波と、ときおり遠くで擦れるノイズだけ。
耳を刺す音ではありません。
むしろ、疲れた身体のほうが、先に、その音を迎え入れていました。
ノイズは、耳の奥で、ゆっくりと、溶けていきます。
低周波は、聴くのではなく、身体の内側が、勝手に受け取っていました。
それなのに。
何もされていないはずなのに。
ただ、手で丸を作って、囲っているだけのはずなのに。
あなたのペニスは、ヨガ講師の前で、ありえないほど正直になります。
疲れに逆らう、強い勃起。
途中でやめたら、何か大事な接続が切れてしまう気がする。
そんなふうに思わされる時点で、もう少しおかしいのです。
恥ずかしい男気を見せつけて、どんどん呼吸が細かくなってしまう。
興奮状態のあまり瞳孔が開きっぱなしで、目の奥まで気持ちがいい。
このまま、イクを通り越して、死んでしまうんだろうか。
いや、堕ちる、のが正解だと、
そんな確信めいた輝きが、
宇宙に放り出されたあなたを、ペニスごと、すくい取るのです。
体験の最後、女性講師はこう言います。
「この接続は、誰にでも開くわけではありません。
笑って終わる人、途中でやめる人、何も起こらない人。
その一方で、ごく限られた人間だけが、このノイズの中に"入口"を見つけます」
「囲っているだけで、なぜかやめられない。
触れていないのに、なぜか身体が先に反応する。
その時点で、もう適性は出ています」
「選ばれるのは、声に導かれる人ではありません。
意味のわからない波に、身体のほうが先に頷いてしまう人です」
「ご自宅でも瞑想してみてください」
帰り道、電車の窓に映るあなたの手が、まだ丸の形を覚えていました。
その夜、メッセージが届きました。
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【ご自宅実践用音源送付のお知らせ】
本日は、奇天烈瞑想の1日体験にご参加いただき、誠にありがとうございました。
以下のいずれかに該当した方には、本体験会でお聴きいただいた音源を
ご自宅でも実践いただけるようお送りしております。
・囲うのみの工程で勃起反応がみられた方
・接触を伴わない状態で身体反応が生じた方
・説明のない音にもかかわらず再生を止めなかった方
・意味を理解するより先に、身体のほうが反応してしまった方
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「奇天烈瞑想」の文字を見た瞬間、あのノイズが神経をバーストさせます。
音は、まだ、鳴らしていないのに、
身体が、先に、思い出してしまっている。
あなたは気づけば、手で丸を作り、ペニスを……囲っていました――。

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