北国の冬の夜、コートを着たまま盃を交わす居酒屋の片隅で、その女は異彩を放っていた。澄み渡る肌に漆黒の長髪、そして真っ白なミニドレス。一見して息をのむ美貌だが、どこか浮世離れした冷気が漂っている。奇跡的に隣席を許され、温かい酒とカラオケで幾分か距離が縮まったと思った矢先、悲劇―いや、奇跡が起きた。
私の手元から滑り落ちた熱燗が、彼女のドレスに一筋の滴を垂らしたのだ。するとどうだろう。酒がかかった箇所から、布地がジュワリと解け始めていくではないか。焦る彼女は「早く身体を冷やさなきゃ」と呟き、私たちは弾かれたように会計を済ませてタクシーへ飛び込んだ。トレンチコートで必死に隠す彼女を、私は半ば混乱したまま自室へと連れ込むことになった。
部屋に入り、彼女がコートを脱ぎ捨てた瞬間、私は息を飲んだ。ドレスどころか下着まで跡形もなく溶け去り、目の前には神々しいまでの全裸が晒されていたからだ。彼女の纏っていた衣類は布ではなく、雪と氷で造形された幻影―そう、彼女の正体は本物の「雪女」だったのだ。彼女はキッチンの水道水を勢いよく出し、火照った身体を必死に冷やし始める。
蛇口から滴る水と、濡れた肢体から立ち上る白い蒸気。アパートの一室という日常の空間に、突如として舞い降りた妖怪の官能。目の前で無防備に水を浴びる美貌の全裸を前にして、男としてどう動くべきか。
この異界の存在と過ちを侵し、一生消えない氷の呪いを背負うリスクを取るのか。それとも、口外しない誓いと引き換えに、二度と会えないはかない夢として彼女を寒空へ帰すのか。北国の夜の冷気とともに、選択の刻が静かに迫っている。
⚠️ If you enjoy this work, please consider / 気に入ったら supporting the author on DLsite / 作者を支援してください . Files are provided for evaluation purposes only. / ファイルは評価目的のみ提供されます。
No comments yet. / まだコメントはありません。
Be the first to comment! / 最初にコメントしよう!